ヘンデルを歌うときの、澄み切っているにもかかわらず骨太な声。フランスものを歌う時の、声の自然な暖かみと奥行き。
でも、もしデセイの声の魅力を一枚で見渡せるCDを選ぶとすれば、これになる気がします。
1曲目は、夜の女王の激情が、激しさはそのままに、透明に昇華されています。怒りという感情も、ひたむきであれば美しくなりうることの証明。おなじ作曲家の遺作の中の「怒りの日」を連想させる夜の女王は、このデセイだけではないでしょうか。
7曲目「アルバのアスカニオ」のみずみずしさ。10代のモーツァルトにしか書けなかったものが再現されていると思います。
8−9曲目「後宮からの逃走」コンスタンツェのアリア。突き抜けるように伸びやかな強音(まさにデセイの特長)。それと、繊細でいながら、くっきりとした輪郭を持つ弱音。
激しさと繊細さを自在にあやつれる技量。モーツァルトに、あたらしい息吹を吹き込んだ歌唱で、モーツァルトという作曲家の広さと深さを再認識できる演奏です。
このCDを聴くと、私は、10代のとき自分のおこづかいでモーツァルトのLPを買い始めた頃を、なぜか思い出したりします。(その頃は器楽とシンフォニーしか聴いてませんでしたが)。